カタログに「HEPA H13、効率 99.95%」と書いてある。この数字はどう測ったのか?どの粒径で?「全面」99.95% か「平均」99.95% か?EN 1822 を理解すればすべて答えが出る。

EN 1822 の成り立ち

EN 1822 は欧州標準化委員会(CEN)が策定した高効率エアフィルターの分級・試験規格で、正式名称は「High efficiency air filters — EPA, HEPA and ULPA」。対象は効率 ≥ 95% のフィルター、つまり一般空調では使わない高性能帯以上。

EN 1822 以前は各国がバラバラだった:米国は MIL-STD-282(DOP 法)、日本は JIS B 9927、ドイツは DIN 24184。EN 1822 はこれらを統一し、後に ISO 29463 として国際化された。

メーカーにとっても調達担当にとっても、EN 1822 の等級は共通言語。台湾工場からドイツへ出荷しても、日本メーカーから米国 Fab へ納品しても、H13 は H13 — 試験方法と判定基準は同じ。

EPA / HEPA / ULPA — 3 カテゴリーの違い

EN 1822 は高効率フィルターを 3 つに分類:

カテゴリー等級範囲平たく言うと
EPA(Efficient Particulate Air)E10 – E12「高効率」だが HEPA 未満
HEPA(High Efficiency Particulate Air)H13 – H14本物の「高性能微粒子エアフィルター」
ULPA(Ultra Low Penetration Air)U15 – U17「超低透過」、半導体グレード

各等級は「全体効率」と「局所効率」の 2 指標で定義:

EN 1822 全等級一覧

EPA → HEPA → ULPA の 3 大分類・10 等級 — 数字が大きいほど高効率、ただし圧損・コストも上昇

等級区分全体効率 ≥局部効率 ≥代表的用途
E10EPA85%一般換気、AHU プレフィルター
E11EPA95%中性能段、電子工場二次ろ過
E12EPA99.5%病院一般区域、製薬前段
H13HEPA99.95%クリーンルーム ISO 7–8、手術室
H14HEPA99.995%≥ 99.975%半導体前工程、ISO 5、BSL-3
U15ULPA99.9995%≥ 99.9975%EUV 先端プロセス、ISO 3–4
U16ULPA99.99995%≥ 99.99975%極端クリーン環境、量子実験
U17ULPA99.999995%≥ 99.9999%理論極限等級、特殊研究

試験基準は MPPS(最大透過粒径、約 0.12–0.25 μm)。「全体効率(Overall)」はフィルター全面平均値、「局部効率(Local)」はスキャン試験中の最低点値。H13 以下は全体効率のみ、H14 以上は局部効率も要求し「一点も漏れなし」を保証。

ポイント:

  • E10〜E12 は全体効率のみで判定。スキャン不要
  • H13 以上は局所効率も必須——「全面平均」だけでなく最も弱い一点も基準を満たす必要あり
  • 1 等級あがると漏れ率が約 10 倍厳しくなる:H13 は 0.05% 透過許容、H14 は 0.005%
たとえ話:H13 は「クラス平均 95 点以上、最低点は 75 点以上」。H14 は「クラス平均 99.5 点以上、最低点 99.75 点以上」。ULPA は「一人も不合格を出してはならない」レベル。

MPPS — なぜ 0.3 μm を使わないのか

「HEPA は 0.3 μm を 99.97% 除去」という説明を聞いたことがあるかもしれない。これは米国 IEST の定義。EN 1822 は固定 0.3 μm ではなく、MPPS(Most Penetrating Particle Size)——その個別フィルターにとって最も透過しやすい粒径——を使う。

理由は、フィルターごとに「弱点粒径」が違うから:

  • ガラス繊維 HEPA:MPPS は通常 0.12〜0.25 μm
  • PTFE メンブレン:MPPS は 0.05〜0.1 μm もありうる
  • エレクトレットメディア:使用とともに MPPS がシフト

MPPS:フィルターの「アキレス腱」はどこか

機械捕集は大きい粒子、拡散捕集は小さい粒子を捕る — どちらも苦手な中間粒径が MPPS

MPPS 域0.12–0.25 μm粒径 (μm)透過率MPPS拡散主導域(< 0.1 μm)捕集主導域(> 0.3 μm)
なぜ 0.3 μm ではないか

米国旧規格(IEST)は 0.3 μm 固定で試験するが、0.3 μm は既に MPPS を外れており、測定効率は「最悪ケース」より良く見える。EN 1822 は MPPS で試験し、真の弱点を捉える。同一フィルターを両規格で測ると EN 1822 の数値がやや低くなるのはこのため。

実際の MPPS はろ材種類・繊維径・面速度で異なり、典型範囲は 0.12–0.25 μm。EN 1822 は「最も捕集困難な粒径」で試験し、0.3 μm 固定よりも厳格かつ実態に即している。

MPPS はフィルターの「アキレス腱」——最も苦手な粒径で挑戦してこそ、最悪条件の効率がわかる。固定 0.3 μm で測ると、弱点を「たまたまかわす」フィルターが実力以上の数字を出してしまう。

要点:EN 1822 の効率値は MPPS で測定されるため、同じフィルターでも固定 0.3 μm 測定より「低く見える」数字になる——しかしその方が正直。

三段階の試験フロー

EN 1822 の完全試験は三段階。等級が上がるほど多くの段階をクリアする必要がある:

EN 1822 試験フロー:素材から出荷までの 3 段階ゲート

ろ材→組立フィルター→全面スキャンの 3 段階。H14 以上は逐枚の局部リーク試験も必須

1
ろ材効率EN 1822-3要求等級E10+

ろ材サンプル(完成品でなく)で DOP/PAO を用い MPPS 透過率を測定

2
全体効率(全面平均)EN 1822-4要求等級E10+

組立完成品を定格風量で DOP/PAO 灌流、上下流濃度比を計測

3
局部リークスキャンEN 1822-4要求等級H14+

プローブが下流面を S 字走査、閾値超過箇所を検出

DOP/PAO エアロゾルは MPPS(約 0.12–0.25 μm)に集中。スキャン速度は通常 3–5 cm/s。H13 は前 2 段階のみ、H14 以上は 3 段階すべて。

第 1 段階:濾材効率試験 完成フィルターから小片を切り出し、MPPS 粒径のエアロゾルで挑戦。濾材そのものの基本性能を確認。

第 2 段階:全体効率試験 完成フィルターを試験ダクトに装着、同じエアロゾルで挑戦。上流・下流の濃度比を測定。「濾材+枠+シーラント+組立品質」の総合成績。

第 3 段階:スキャンリーク試験 プローブでフィルター下流面を一点ずつ走査(地雷探知のように)、局所透過率が最も高い点を特定。一点でも閾値超えは不合格。

E10〜E12 は第 1・第 2 段階のみ。H13 以上は三段階すべて必須。H14 以上は局所効率の閾値がさらに厳しい。

スキャン試験の操作詳細は PAO スキャン試験ガイド を参照。

全体効率 vs 局所効率

EN 1822 で最も重要な概念の一つ:

  • 全体効率:フィルター全面の平均透過率。「大面積の平均パフォーマンス」を測定
  • 局所効率:スキャンで見つかった最悪の一点の透過率。「最も弱いリンク」を測定

なぜ 2 つ必要か。フィルターの「平均」が優秀でも、すべてのコーナーが良いとは限らない。よくある局所弱点:

弱点の場所原因
枠と濾材の接合部シーラント塗布のムラ
プリーツ頂部折り目で濾材が薄くなる
セパレーターの縁アルミセパレーターと濾材の隙間
濾材の継ぎ目大型フィルターは接合が必要、継ぎ目が弱点

クリーンルームではピンホール一つで部屋全体の清浄度が崩壊しうる——だから H14 以上はスキャン必須で、局所効率の閾値は全体効率より厳しい。

選定実務:EN 1822 等級とクリーンルーム等級の対応

調達で最もよくある質問:「うちのクリーンルームは ISO Class 5 — H13 と H14 どちらを使うべきか?」

簡易対照(実際には換気回数・循環比等も考慮):

ISO 14644 等級推奨 EN 1822 等級代表的用途
ISO Class 8〜9E11〜E12一般電子組立、食品包装
ISO Class 6〜7H13製薬充填、LCD パネル
ISO Class 5H14半導体前工程、TFT-LCD
ISO Class 4 以上U15〜U17先端プロセス(EUV リソグラフィ、ウェーハ検査)

クリーンルーム分級の詳細は ISO 14644 クリーンルーム分級解説、HEPA と ULPA の基本的違いは HEPA vs ULPA 違いガイド を参照。

実務メモ:等級はあくまで最低要件。半導体 Fab の調達仕様書は通常「全体効率 ≥ 99.999%」「局所透過率 < 0.001%」等、H14 標準値より厳しい追加要件を付す。サプライヤーとの交渉では「EN 1822 試験方法」+「効率値」+「全体か局所か」の 3 点を必ず明示。

よくある質問

Q:H13 と H14 はどのくらい違う?

A:透過率で見ると、H13 は最大 0.05%(効率 99.95%)、H14 は最大 0.005%(効率 99.995%)—— 漏れ率で 10 倍の差。クリーンルームでは、この 10 倍が ISO Class 6 と ISO Class 5 の境界線になることが多い。

Q:米国は HEPA を 99.97%、欧州は 99.95% と言うが、どちらが正しい?

A:どちらも正しいが試験方法が異なる。米国 IEST は固定 0.3 μm DOP 試験で閾値 99.97%。EN 1822 H13 は MPPS 試験で閾値 99.95%。MPPS は最も困難な粒径のため、99.95%@MPPS と 99.97%@0.3 μm は実質的にほぼ同等の難易度。

Q:MPPS は常に 0.3 μm か?

A:違う。MPPS は濾材により異なり、通常 0.05〜0.3 μm。0.3 μm という数字は初期の研究で「大半のガラス繊維濾材の MPPS が 0.3 μm 付近」と判明した結果。現代の濾材(特に PTFE 膜)は MPPS がより小さいことが多い。EN 1822 は各フィルターの実際の MPPS をまず測定し、それを効率試験の挑戦粒径に使う。

Q:EPA(E10〜E12)は HEPA に含まれるか?

A:厳密には含まれない。EN 1822 は EPA と HEPA を明確に分類。EPA は効率閾値が低く(E10 は ≥ 85%)、スキャン試験不要。市場では E11・E12 を「準 HEPA」と称する例もあるが、規格文書上は H13 が HEPA の始まり。

Q:フィルター交換時に H14 から H13 に格下げできるか?

A:クリーンルームバリデーションプロトコル次第。プロトコルに「末端濾過 H14」と記載されている場合、格下げすると ISO Class 逸脱の可能性があり、交換後に気流バランスとパーティクルカウント再検証が必要。コスト削減目的で格下げする場合は、交換後に粒子計数器で実際の濃度が ISO Class 許容範囲内であることを確認し、品質保証部門またはエンドユーザーの書面承認を得ること。