半導体工場の調達仕様に「JIS B 9927 準拠」と書いてある。手元には EN 1822 の報告しかない——これで納品できるか?
JIS フィルター試験体系
JIS(日本産業規格)のフィルター関連規格は単一文書ではなく、役割分担が明確なファミリーだ。この構造を理解すれば、顧客が投げてくる各種番号で混乱しない。
JIS フィルター試験体系の全体像
一般空調から HEPA/ULPA まで、JIS は異なる規格番号で分担 — 最終的にすべて ISO 国際規格に対応
| 規格番号 | 名称 | 適用範囲 | ISO 対応 |
|---|---|---|---|
| JIS B 9901 | 一般用エアフィルタの性能試験方法 | 基礎方法論(B 9908 に移行) | — |
| JIS B 8330 | 送風機の試験及び検査方法 | ファン圧損 / 風量基準(フィルター圧損試験で引用) | — |
| JIS B 9908 | 換気用エアフィルタの試験方法 | 初効 ~ 中効(G1–F9) | ISO 16890 |
| JIS B 9927 | HEPA/ULPA フィルタの試験方法 | HEPA / ULPA(H13–U17) | ISO 29463 |
JIS B 9901(一般用エアフィルタの性能試験方法)と JIS B 8330(送風機の試験及び検査方法)は、B 9908 / B 9927 の方法論的基盤となった初期規格。新設計では通常 B 9908 + B 9927 を直接引用するが、既存設備の保守文書では B 9901 がまだ引用される場合がある。
主なメンバー:
| JIS 番号 | 対象範囲 | 平たく言うと |
|---|---|---|
| B 9927 | 高効率フィルター分級・試験(ISO 29463 / EN 1822 対応) | HEPA / ULPA の「マスター規格」 |
| B 9901 | 高効率フィルター性能試験方法(旧規格) | 初期の HEPA 効率試験法 |
| B 8330 | 一般換気用フィルター性能試験方法 | 非 HEPA(粗塵・中性能)の試験 |
| B 9908 | 一般換気用フィルター分級(ISO 16890 対応) | オフィス空調グレードの「マスター規格」 |
要するに:B 9927 は HEPA 以上、B 9908 は一般空調以下をカバー。B 9901 と B 8330 はより古い試験方法で、多くの日本工場の既存仕様書がまだ引用している。
B 9901 と B 8330 がいまだに引用される理由
B 9901 は日本最初期の HEPA 試験規格の一つで、DOP 法(DOP エアロゾルで透過率試験)とパーティクルカウント法の基本手順を定義した。歴史的位置づけは米国の MIL-STD-282 に相当——後の新規格はすべてこの上に立っている。
B 8330 は一般換気用フィルターの試験方法で:
- ▸比色法(重量法):入出口のダスト質量差を測定
- ▸計数法:パーティクルカウンターで粒径別効率を測定
- ▸圧損試験:定格風速での初期圧損を測定
どちらも技術的には B 9927・B 9908 に置き換えられているが、日本の産業界には特徴がある:既存設備の受入検査仕様は容易に変更されない。多くの半導体・製薬工場の SOP は何年も前に書かれ、B 9927 がカバーしているにもかかわらず B 9901 を引用し続けている。
実務上のポイント:日本の顧客仕様書に B 9901 とあっても「それは古い」と言ってはいけない。B 9927(= ISO 29463 等価)準拠の報告を発行し、付記で「B 9927 は B 9901 の全試験内容を包含」と説明するのが正解。
B 9927 と EN 1822 / ISO 29463 の比較
B 9927 は ISO 29463 の JIS 国内転化版で、技術的にはほぼ完全に整合:
JIS フィルター試験規格 vs EN 1822 対照
JIS B 9908 が中低効率、JIS B 9927 が HEPA/ULPA — B 9927 は EN 1822 / ISO 29463 と高い整合性
| 比較項目 | JIS B 9908(中低効率) | JIS B 9927(HEPA/ULPA) | EN 1822(参考) |
|---|---|---|---|
| 対象フィルター | 一般空調用(初効~中効) | HEPA / ULPA 専用 | EPA / HEPA / ULPA(E10–U17) |
| 試験粒子 | 大気塵 / 人工塵 | DOP / PAO(MPPS) | DOP / PAO(MPPS) |
| 効率分級 | 質量法 + 計数法(粒径別) | 99.97% / 99.99% / 99.999%… | 99.95% / 99.995%…(MPPS 基準) |
| スキャンリーク試験 | —(対象外) | 高効率品は逐枚スキャン | H14 以上逐枚スキャン |
| 圧損要求 | 初期 + 終期圧損 | 初期圧損(定格風量) | 初期圧損 |
| ISO 29463 との関係 | 対応なし | ISO 29463 に直接対応 | ISO 29463 の元 |
JIS B 9908 は一般空調用フィルター(EN 779 / ISO 16890 相当)。JIS B 9927 は高効率フィルター専用。両者で初効から ULPA の全範囲をカバー。JIS B 9901 / B 8330 は旧世代の汎用試験法で日本では依然引用されるが、新プロジェクトでは B 9908 + B 9927 に移行。
| 比較項目 | JIS B 9927 | EN 1822 / ISO 29463 |
|---|---|---|
| 等級記号 | ISO 29463 の E10〜U17 を引用 | E10〜U17 |
| 試験粒径 | MPPS | MPPS |
| スキャン試験 | H13 以上必須 | H13 以上必須 |
| エアロゾル種 | DEHS、PAO 等 | DEHS 等 |
| 圧損試験条件 | 日本慣用面風速 | 欧州慣用面風速 |
| 報告形式 | JIS 形式 | EN / ISO 形式 |
実質的な違いは技術仕様ではなく市場慣行:
- ▸日本の顧客は JIS 番号の報告を好む(内容が ISO 29463 と同じでも)
- ▸圧損試験の面風速が欧州と異なる場合がある(日本は 2.5 m/s、欧州は 1.0 m/s が多い)
- ▸報告は日本語で JIS 規定のフォーマット
日本の工場はどう指定するか
日本の半導体工場との取引では、仕様書に以下のような記載がよく見られる:
記載 1:「JIS B 9927 に準拠し、H14 以上」 → 最も直接的。「ISO 29463 H14 以上」と等価。EN 1822 H14 報告も等級対照付きで受入可。
記載 2:「JIS B 9901 による DOP 法にて、透過率 0.005% 以下」 → 旧記載だが技術要件は明確。B 9927 / ISO 29463 方法で 99.995%(= H14)達成すれば満足。報告に「B 9927 で試験、B 9901 の DOP 法等価内容を包含」と付記。
記載 3:「EN 1822 相当の性能を有すること」 → 日本工場が国際主流を認識済み。EN 1822 または ISO 29463 報告をそのまま提出。
記載 4:「IEST RP-CC001 Type C 以上」 → 米国親会社との関連がある日本工場で散見。IEST 報告、または EN 1822 H13 + 等級対照を提出。
日本フィルターメーカーの試験報告の読み方
日本の主要高効率フィルターメーカー(例 NIPPON MUKI)の出荷報告は通常以下を含む:
| 欄 | 説明 |
|---|---|
| 型番 | 製品型番 |
| 等級 | H13、H14、U15 等(ISO 29463 / JIS B 9927 記号) |
| 面風速 | 試験風速(m/s または m³/min) |
| 初期圧損 | 初期圧力損失(Pa) |
| 全体効率 | 全体効率(%) |
| MPPS | 最大透過粒径(μm) |
| 局部透過率 | スキャン最悪点の透過率(%) |
| 試験方法 | 引用 JIS / ISO 番号 |
報告に「全体効率」はあるが「局部透過率」がない場合、H13 以上であればスキャン未実施の可能性がある——EN 1822 / ISO 29463 / JIS B 9927 の H13 以上要件を満たさない。サプライヤーにスキャン報告の追加発行を要求すべき。
日本メーカーの耐高温 HEPA の特殊試験については 500°C 耐熱 HEPA 発ガス試験 を参照。
よくある質問
Q:JIS B 9908 と ISO 16890 は同等か?
A:技術的に整合。JIS B 9908 は ISO 16890 の国内転化版で、分級方式(ePM1 / ePM2.5 / ePM10 / Coarse)は同じ。B 9927 / EN 1822 との関係は「別領域」——B 9908 は MERV 級の一般空調フィルター、B 9927 は HEPA 以上。互いに代替しない。ISO 16890 の詳細は ISO 16890 規格紹介 を参照。
Q:1 枚のフィルターで EN 1822 と JIS B 9927 の両方を取得できるか?
A:できる。両者の技術的核心(MPPS 試験、三段階フロー、等級記号)はほぼ同一で、両規格の校正要件を満たすラボで試験すれば二重報告が可能。大手グローバルフィルターメーカーは既にこれを行っている。
Q:仕様書に B 9901 と書いてあるのは古いのか?
A:B 9901 の試験方法は技術的に B 9927 にカバーされるが、引用する仕様書が「無効」とはならない。正しい対応:B 9927 報告を発行し、「B 9927 は B 9901 の全試験内容を包含」と付記。日本の顧客に「仕様書が古い」とは言わないこと——日本の商習慣では摩擦を生む。
Q:JIS フィルター試験の圧損定義は?
A:JIS B 9927 の圧損試験は EN 1822 / ISO 29463 と同一ロジック:定格面風速でフィルター上下流の静圧差を測定。違いは日本慣用面風速が欧州と異なりうる点(日本は 2.5 m/s、欧州は 1.0 m/s が多い)。同一フィルターでも JIS 報告と EN 報告で圧損値が異なることがあるが、品質の問題ではなく試験条件の違い。比較時は面風速の確認を。
Q:JIS 認証なしで日本の工場に納品できるか?
A:顧客仕様次第。「JIS B 9927 準拠」と書かれていれば厳密には JIS 報告が必要。ただし実務上、EN 1822 または ISO 29463 報告+等級対照表を提出すれば大半の日本顧客は受入可能——技術的等価を認識しているため。本当のハードルは「どの規格の報告か」ではなく「入荷検査に通るかどうか」。



