発注書に「EN 1822 H14 準拠」と書いたら、日本のサプライヤーから「弊社報告は ISO 29463 で試験」と返ってきた——合格とみなせるか?
ISO 29463 = EN 1822 の国際版
一言で言えば:ISO 29463 は EN 1822 を欧州規格から国際規格に昇格させたもの。技術的核心はほぼ同じ——等級記号(E10〜U17)、MPPS 試験の概念、三段階試験フロー、すべて同一のロジック。
なぜ ISO 版が必要か。EN は「欧州規格」であり、法的拘束力は CEN 加盟国のみ。米国・日本・中国・台湾など非 CEN 国は実務上 EN 1822 を広く引用しているが、他地域の規格を自国法規で引用するのは不便。ISO 29463 はこの問題を解決する——ISO 発行なので、世界のどの国でも直接引用できる。
EN 1822 の分級体系 にまだ馴染みのない方は、先にそちらを読んでから戻ることを推奨。
逐項対照
ISO 29463 vs EN 1822:項目別対照
ISO 29463 は EN 1822 の「国際版リライト」。技術的核心はほぼ同一だが、細部で厳格化・緩和がある
| 比較項目 | EN 1822 | ISO 29463 | 差異 |
|---|---|---|---|
| 等級名称 | E10–E12, H13–H14, U15–U17 | 完全同一 | なし |
| 効率閾値 | H13 ≥ 99.95%, H14 ≥ 99.995%… | 完全同一 | なし |
| 試験粒子 | DOP または PAO | PAO 優先(DOP は発がん懸念で弱化) | 実務差なし(業界はすでに PAO に移行) |
| スキャン速度 | 上限の明確な規定なし | スキャン速度上限を明確に定義 | ISO がより厳格 — 「高速スキャンで見逃す」防止 |
| 局部効率閾値 | H14 以上 | 完全同一 | なし |
| 適用地域 | ヨーロッパ(CEN 加盟国) | 全世界(ISO 加盟国) | ISO はグローバル共通、国際調達で変換不要 |
| 各国規格との関係 | 欧州各国が直接採用(例: DIN EN 1822) | 日本 JIS B 9927 / 中国 GB/T / 台湾 CNS 等が対応 | 非欧州国が ISO 29463 を通じて欧州と整合 |
ISO 29463 は 5 Part(分類、エアロゾル発生、ろ材試験、リーク検出、全体効率)。EN 1822 も 5 Part で構成は類似するが番号順が異なる。技術差は極めて小さく、ISO が各国の分散的な手法を統一した点が主な意義。
主な相違点:
| 比較項目 | EN 1822 | ISO 29463 |
|---|---|---|
| 発行機関 | CEN(欧州) | ISO(国際) |
| 等級記号 | E10〜U17、同一 | E10〜U17、同一 |
| MPPS 概念 | あり | あり、ロジック同一 |
| スキャン試験 | H13 以上必須 | H13 以上必須 |
| 文書構成 | 単一文書 | 5 つの Part に分割 |
| エアロゾル発生器規定 | やや概括的 | より詳細な校正要件 |
| パーティクルカウンター規定 | やや概括的 | OPC 精度要件を追加 |
最大の違いは「何を測るか」ではなく「どうやって測定精度を担保するか」——ISO 29463 はラボ機器の校正、エアロゾル安定性、サンプリングラインロスの補正など、EN 1822 よりも詳細に規定。
平たく言えば:EN 1822 が試験シラバスなら、ISO 29463 はシラバス+試験監督規則+不正防止措置。試験内容は同じだが、試験環境への要求が厳しい。
世界各国の採用状況
グローバル HEPA/ULPA 規格対照マップ
EN 1822 は欧州規格、ISO 29463 は国際規格 — 各国の国内規格はほぼこの 2 つに対応
| 国 / 地域 | 国家規格 | 対応先 |
|---|---|---|
| EU / CEN 加盟国 | EN 1822 | ISO 29463 |
| ドイツ | DIN EN 1822 | EN 1822 = ISO 29463 |
| 日本 | JIS B 9927 | ISO 29463 |
| 中国 | GB/T 13554 | ISO 29463 |
| 台湾 | CNS | ISO 29463 |
| 韓国 | KS | ISO 29463 |
| 米国 | IEST-RP-CC001 | — (獨立體系) |
米国は IEST(環境科学技術協会)体系が依然広く使われる唯一の主要市場。ただしグローバル企業・半導体工場は EN 1822 / ISO 29463 にほぼ統一。台湾 CNS は ISO 29463 に整合。
実態:多くの国が EN 1822 から ISO 29463 へ移行中だが、移行期は長い。
- ▸EU:CEN は ISO 29463 を EN ISO 29463 として転化済みだが、市場では EN 1822 認証フィルターが依然主流
- ▸日本:JIS が対応する JIS B 9927 を発行、技術的に ISO 29463 と整合するが、日本市場は JIS 報告書を好む
- ▸中国:GB/T が ISO 29463 を国家標準として採納済み、新設 Fab の仕様書で引用が始まっている
- ▸米国:IEST が市場慣行として残るが、グローバル企業の統一仕様で ISO 29463 が増加
- ▸台湾:CNS は完全転化未了だが、大手半導体メーカーは社内規格で ISO 29463 を引用
米国で IEST が残り続ける理由
米国市場は特殊。IEST-RP-CC001(HEPA・ULPA 推奨慣例)は北米で数十年にわたり浸透し、サプライチェーン全体——フィルターメーカーから試験ラボ、エンドユーザーまで——が IEST を軸に構築されている。
IEST と EN 1822 / ISO 29463 の最大の違い:
| 項目 | IEST | EN 1822 / ISO 29463 |
|---|---|---|
| 挑戦粒径 | 固定 0.3 μm | MPPS(濾材ごとに異なる) |
| 挑戦エアロゾル | DOP または PAO | DEHS 等 |
| 等級分類 | Type A/B/C/D/E/F | E10〜U17 |
| スキャン速度規定 | やや緩い | より厳密 |
実務上、多くのグローバル半導体 Fab は「EN 1822 / ISO 29463 報告」と「IEST 報告」の両方を要求——アジア・欧州拠点は前者、米国拠点は後者。フィルターメーカーは通常両方発行する。
越境調達の判断方法
調達担当として、同一フィルターに 2 種の報告がある場合の判断:
シナリオ 1:報告が EN 1822 のみ → 技術的に ISO 29463 と等価。受入可。ただし社内規格が ISO 29463 に更新済みなら、サプライヤーに ISO 報告の追加発行を依頼(差は主に機器校正記録)。
シナリオ 2:報告が ISO 29463 のみ → 等級記号と試験方法は EN 1822 と一致。そのまま使用可。「EN 1822 ではない」と指摘を受けた場合は、対照表を提示。
シナリオ 3:報告が IEST(Type C ≈ H13 相当) → 等級は対応可能だが試験方法が異なる(固定 0.3 μm vs MPPS)。仕様書が EN 1822 / ISO 29463 の場合、厳密には直接代替不可——MPPS 試験の追加が必要。
推奨:新規調達仕様書は ISO 29463 を引用し、「または同等の EN 1822 / EN ISO 29463」を付記。これでグローバルサプライヤーが一本化でき、「どの規格を認めるか」の議論が不要になる。
ISO 14644 クリーンルーム分級 とフィルター等級の対応については、そちらの記事を参照。
よくある質問
Q:手持ちの EN 1822 認証は日本で使えるか?
A:技術的には使える。EN 1822 と ISO 29463 は等級・試験方法が一致。ただし日本の顧客は JIS B 9927 報告を併せて要求する場合がある。実務上は EN 1822 報告+等級対照説明を添付すればほぼ受入可能。
Q:DOP 試験法は本当に使えなくなったのか?
A:DOP(フタル酸ジオクチル)は健康懸念(内分泌攪乱物質の疑い)から DEHS(セバシン酸ジエチルヘキシル)または PAO(ポリαオレフィン)に置換済み。EN 1822 / ISO 29463 は DOP を標準エアロゾルに指定していない。IEST は DOP/PAO の選択肢を残す。旧仕様書に「DOP 試験」とある場合、「DEHS or PAO 試験」への更新を推奨。
Q:ISO 29463 は EN 1822 より厳しいのか緩いのか?
A:効率閾値は完全同一(H13 = 99.95%、H14 = 99.995% 等)。合否の「厳しさ」は同じ。ISO 29463 がより厳しいのは試験手順の品質管理——機器校正、エアロゾル安定性、サンプリング損失に関する要件がより詳細。
Q:半導体 Fab はどの規格を使うべきか?
A:Fab と顧客の所在地による。グローバル展開企業は ISO 29463 をマスター仕様とし、各拠点にローカル規格対照表(欧州は EN 1822、日本は JIS、米国は IEST)を添付するのが効率的。フィルター仕様書 1 本でグローバルカバー可能。
Q:CNS(台湾国家標準)とこの 2 つの関係は?
A:CNS は ISO 29463 を完全転化していない。台湾市場は現在 EN 1822 を主に引用するが、大手半導体メーカーの調達仕様は順次 ISO 29463 へ移行中。サプライヤーは EN 1822 と ISO 29463 の両報告を準備するのがベスト。



