半導体工場のガス配管溶接ビードは鏡面のように滑らか —— 工場が彫刻で作ったかのよう。
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なぜそこまで? ビード粗さが配管全体の清浄度を決定するから。
なぜ HEPA 枠とクリーンルーム配管は TIG 必須か
HEPA/ULPA 枠、FFU 筐体、高純度ガス配管、医薬品 GMP 配管 —— すべて TIG 溶接。コストが 5–10 倍安い MIG や電弧棒ではダメな理由は?
答えはビード自体:
MIG / 電弧棒の問題
- ▸スラグ(残渣) —— 被覆フラックスが残留し管壁に付着
- ▸スパッタ —— 金属飛沫が溶接部周囲に散乱
- ▸酸化層(heat tint) —— 高温でクロム酸化物生成、耐食性低下
- ▸気孔(porosity) —— 溶接内部の微小気泡、塵を溜め細菌を育てる
一般工業では許容可、しかしクリーンルーム・半導体ガス配管・医薬品配管では:
- ▸スラグ → プロセス汚染 —— 下流装置が異物混入
- ▸酸化層 → 耐食性破壊 —— 配管寿命激減
- ▸気孔 → 細菌増殖 —— 無菌医薬品区の宿敵
TIG の優位性
図1:3 大溶接法の比較 — TIG / MIG / 電弧棒
HEPA 枠、FFU 筐体、クリーンルーム配管はすべて TIG 溶接 — なぜ?
| 方法 | シールドガス | 電極 | ビード品質 | 速度 | 代表用途 |
|---|---|---|---|---|---|
| TIG(GTAW) | Ar / He | タングステン(非消耗) | 極高(平滑・スパッタなし) | 遅い | クリーンルーム配管、精密機器、薄板 SUS |
| MIG(GMAW) | Ar + CO₂ / 純 Ar | ワイヤー(消耗) | 中高 | 速い | 一般工業、厚板鋼構 |
| 電弧棒(SMAW) | なし(被覆フラックス自己防護) | 溶接棒(消耗) | 中(スパッタ・スラグあり) | 中 | 現場施工、屋外、厚板 |
TIG(タングステン不活性ガス溶接)は精密ステンレス溶接の業界標準。ビード平滑、スパッタ無し、プロセスガス無汚染 —— 半導体・バイオ・医薬品クリーンルームが採用する理由。代償は低速・高コスト。
TIG = Tungsten Inert Gas Welding(タングステン不活性ガス溶接)、別名 GTAW。
- ▸タングステン電極は非消耗 —— ビードに金属屑が入らない
- ▸100% アルゴンシールド —— 酸素・水分を完全排除、酸化・気孔なし
- ▸無充填材溶接可 —— 薄板 SUS を直接融合、ビードが見えないほど滑らか
- ▸ビード品質再現性 —— 同一溶接工・同一機で毎ビードが仕様通り
代償:低速・高コスト労務。TIG 溶接工の 1 日溶接長は MIG の約 1/3、時給は 1.5–2 倍。
合金選定:「ステンレス」はすべて同じではない
図2:代表的ステンレス + ニッケル基合金の対照
「ステンレス」も千差万別 —— 304 / 316L / 321 / Hastelloy に独自の戦場がある
| 合金 | 主要組成 | 強度 | 耐食性 | 溶接難度 | 代表用途 |
|---|---|---|---|---|---|
| SUS 304 | Fe-18Cr-8Ni | 中 | 普通(塩化物弱) | 容易 | 一般構造、HEPA 枠、食品設備 |
| SUS 316L | Fe-17Cr-12Ni-2Mo 低 C | 中 | 優(塩化物、孔食耐性) | 容易 | 半導体ガス配管、医薬品 GMP、海洋 |
| SUS 321 | Fe-18Cr-9Ni-Ti | 中 | 普通、高温安定性良 | 容易 | 高温排気、タービン、航空宇宙 |
| SUS 904L | Fe-20Cr-25Ni-4.5Mo-Cu | 中 | 極優(硫酸・リン酸) | 中 | 化工酸環境、海水処理 |
| Hastelloy C-276 | Ni-16Cr-16Mo-4W | 高 | 極優(ほぼ全薬品) | 難 | 強酸、塩素、化工最悪環境 |
| Inconel 625 | Ni-21Cr-9Mo-3.5Nb | 超高 | 極優 | 難 | 高温 + 腐食、航空エンジン、原子力 |
| チタン Ti Gr.2 | 純チタン >99% | 中 | 極優(塩化物、海水) | 難(完全アルゴンシールド必要) | 塩化物、医療インプラント、化学 |
合金選定ミスの代償:304 を塩化物環境で使うと孔食・穿孔、316L を還元性酸で使うと失効、一般ダクトに Inconel を使えば予算が燃える。合金選定は溶接条件と連動 —— 各合金に固有の予熱温度・シールドガス組成・溶接後熱処理要求がある。
エンジニアはよく「ステンレスはステンレス」と誤解。大違い。
304 vs 316L —— Mo 1 つの差
304(Fe-18Cr-8Ni)—— 標準ステンレス、最低コスト。塩化物耐性劣 —— 沿岸工場・塩環境・プール周辺は 6 か月で孔食。
316L(Fe-17Cr-12Ni-2Mo 低炭素)—— Mo 2 % + 低炭素。塩化物耐性大幅向上 —— 半導体 HCl ガス配管・医薬酸洗設備・海洋環境には 316L 必須。
重要:「L」は低炭素(Low Carbon)。低炭素で晶界腐食(grain boundary corrosion)リスク低減 —— 溶接でよく発生する問題。クリーンルーム配管は 316L 一択、316 普通でケチらない。
321 —— 高温専用
321(Fe-18Cr-9Ni-Ti)—— チタン添加で高温炭化物安定。連続 800 °C 耐用 —— 航空エンジン排気・タービン・化学高温。塩化物耐性は普通、塩・酸不向き。
Hastelloy C-276 —— 化工地獄シーン
Hastelloy(Ni-16Cr-16Mo-4W)—— ニッケル基。ほぼ全化学品に耐える —— 強酸・強塩基・塩素・臭素。
欠点: 316L の 5–8 倍コスト、溶接困難(入熱厳格管理必要)。化工最悪環境のみ使用 —— 強酸プロセス・塩素配管・フッ素廃棄。
Inconel 625 —— 高温 + 腐食ダブル
Inconel(Ni-21Cr-9Mo-3.5Nb)—— ニッケル基、超高強度。高温 + 腐食両立 —— 航空エンジン熱端・原子炉・火力発電ボイラー。
チタン —— 塩化物と医療
Ti Gr. 2(純チタン >99%)—— 軽量、塩化物耐性最強(316L の約 100 倍)、生体適合性優。医療インプラント・海水淡水化・塩素工学の第一選択。
欠点: 溶接困難、完全アルゴンシールド必須 —— チタンは 500 °C 以上で酸素と激反応し脆性 TiO₂ 生成。専用チタン溶接ボックス(パージチャンバー)は高価。
選材 × 溶接の連動関係
合金選定誤れば溶接が完璧でも失敗。しかし合金正しくても溶接を誤れば同様に失敗。
3 つの重要パラメータを整合:
1. 予熱温度
| 合金 | 予熱要求 | |------|---------| | 304 / 316L | 不要 | | Inconel 625 | 150 °C 予熱 | | Hastelloy C-276 | 溶接前清浄極重要、通常予熱なし | | Ti Gr. 2 | 予熱なし、ただし裏面アルゴンパージ必須 |
2. シールドガス組成
| 合金 | 推奨シールド | |------|-------------| | 304 / 316L | 純 Ar または Ar + 2% N₂ | | Inconel | 純 Ar | | Hastelloy | 純 Ar(高純度) | | Ti | 純 Ar(N₂・O₂ 絶対不可) |
3. 溶接後熱処理(PWHT)
| 合金 | 要求 | |------|------| | 304 / 316L | 通常不要 | | 321 | 溶接後 870 °C 安定化処理 | | Hastelloy C-276 | 溶接後 1121 °C 固溶処理(厚板) | | Ti | 大物は応力除去焼鈍 |
いずれか誤れば溶接部の耐食性・強度・疲労寿命が 50 % 低下しうる。
実務推奨
調達前に 3 つ確認
- 1溶接施工要領書(WPS) —— 各合金・接合部に WPS を提供できるか?
- 2溶接工資格(PQR) —— ASME または ISO 9606 認証ありか?合金別認証は横転可不可
- 3受入試験 —— クリーンルーム配管にはヘリウム漏れ試験 + ボアスコープ検査 + 電解研磨後表面粗さ Ra ≤ 0.4 μm を要求
合金選定誤りの代償
- ▸304 を塩化物環境で使用 —— 6 か月で孔食穿孔
- ▸316 を還元性酸で使用 —— 1 年で失効
- ▸炭素鋼を高温で使用 —— 数か月で酸化皮剥落
- ▸炭素鋼を医療で使用 —— 鉄イオン汚染
単価差は数千円程度、しかし再施工・停止・汚染処理の代償は 100 倍以上。
HEPA 枠・FFU 筐体・クリーンルーム配管 —— これら「単純な金属部品」の背後には、合金選定と溶接工程の精密な組合せがある。 正しい合金 × 正しい溶接法が、高品質ろ過システムの基盤。



